中国のスパイ活動 濃厚に/日米の最高機密が漏洩
海上自衛官、組織ぐるみか
【ポイント】
海上自衛隊の下士官が日米の最高機密であるイージス艦の情報を持ち出し、それが中国人妻を通じて中国に流れていた可能性が高まっており、一大スパイ事件に発展する様相を見せている。イージス艦はイージスシステムと呼ばれる世界最高峰の防空能力を有する護衛艦で、中露の軍事力を抑止する米軍の中枢的な艦船だ。それだけに同システムは最高機密で米国が他国に供与しているのは日本とスペイン、ノルウェーの3国だけ。これが中国に漏洩していれば世界の軍事バランスを崩す大事態に発展しかねない。スパイ防止法制定が焦眉の急となっている。
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報道によると、事件が発覚したのは今年1月。神奈川県警が海上自衛隊第1護衛隊群(神奈川県横須賀市)の護衛艦「しらね」(イージス艦)乗組員の2等海曹(33)の中国籍の妻(33)を入管難民法違反容疑(不法残留)で逮捕し、自宅を家宅捜索したところ、護衛艦のレーダーのデータや通信関係の周波数などを記録したフロッピーディスクなどが発見された。
その中にイージス艦の迎撃システムなどの機密情報に関する約800頁に及ぶファイルがあり、レーダー周波数やイージス艦の構造図面などがあった。別の艦艇に乗り組む海曹クラスの同僚隊員から入手したと見られる。
米国から供与された武器性能などは日米相互防衛援助協定に伴う秘密保護法によって漏洩が禁止されており、とりわけイージス艦情報は防衛省が指定する秘密情報の中でも最も秘匿性の高い「特別防衛秘密(特防秘)」にされている。
■ハニートラップの可能性高まる
これまでの調べで特防秘の機密情報はイージスシステムの保守管理を担当する三等海佐が幹部教育用資料として作成したものとわかった。だが、2曹などの下士官が接触できる情報ではなく、入手経路にはさらに複数の幹部自衛官が関与している可能性が高く、海上自衛隊内にスパイ網が張り巡らされているとの見方も出ている。
問題は2曹の中国人妻の存在だ。ジャーナリストの加藤昭氏は4月7日付の「夕刊フジ」で中国人妻が男性を誘惑して情報を入手するスパイ活動「ハニートラップ」を仕掛けていた可能性があると指摘している(産経新聞4月7日付)。
それによると、福建省出身の「陳」と称する妻は3年前、東京都内で窃盗容疑で逮捕され強制退去処分を受けた後、日本に再入国し、横浜の中華街で働いていた。知人の紹介で2曹と知り合い、昨年10月に結婚した。
ところが昨年12月に自らオーバースティだとして入国管理局に出頭したという。その際、「すべて終わった」と語っており、「日本の機密情報管理の甘さをあざ笑い『イージス艦情報はもらった』と任務完了を宣言したのでないか」(防衛省幹部)と見られている。
■太平洋の覇権へ海軍情報に焦点
中国は最近、日米の軍事情報を入手するため、さまざまスパイ工作を仕掛けてきており、今回の事件もその一環と見て間違いない。とりわけ西太平洋の海上覇権を目指し、海軍情報の入手に血眼をあげており、海上自衛隊が標的にされている。
昨夏、上海に無断渡航を繰返していた上対馬警備所の1等海曹(45)が処分された。1曹は周辺国の艦船や潜水艦の写真などを集めた海自の「識別参考資料」をCDへ不正コピーし自宅に持ち帰り8回にわたって上海に無断渡航していた。
1曹は上海では中国情報機関の“拠点”とされるカラオケ店に出入りして中国人女性と再三会っていたが、このカラオケ店は中国当局からスパイを強要され自殺した領事館員が通っていた同じ店で、ハニートラップの可能性が大だ。
この関連で事情聴取を受けていた佐世保基地の護衛艦勤務の1等海曹(42)が昨年8月に自殺するなどスパイ事件が海自に広がっていた。
また警視庁公安部は2月、防衛庁(現防衛省)技術研究本部の元技官(64)を在職中に潜水艦に関する資料を持ち出した窃盗容疑で書類送検したが、これは単なる窃盗事件ではなく中国によるスパイ事件だった。
元技官は中国大使館の武官らと付き合いの深い貿易会社元社長の要求に応じて、「高張力鋼」と呼ばれる潜水艦の船体に使われる特殊鋼材や加工に関する技術報告書をコピーし無断で持ち出しており、中国側に渡ったのは確実だ。
「高張力鋼」情報の漏洩は潜水艦の潜航深度や魚雷などによる破壊程度を教えるばかりか、それを潜水艦建造に利用すれば中国の潜水艦能力は格段に高まる。
昨年10月、米空母「キティホーク」を中心とする米海軍打撃部隊が沖縄近海の西太平洋上で訓練中、中国海軍の宋級ディーゼル潜水艦が密かに追跡、魚雷の射程内のわずか8キロまで接近される事件が起こっており、中国の潜水艦技術の向上に衝撃が走った。日本からスパイした情報によって技術向上が図られているなら、由々しき事態と言わざるを得ない。
■このままでは日米同盟瓦解
そして、今回はイージス艦情報の漏洩である。すでに中国は04年から独自の“イージス艦”を配備しているが、これを米軍並みの能力に高めるためにスパイ活動を行なってきたとの見方が有力である。
中国は「近海での総合的な海上作戦能力を増強する」(06年版国防白書)ことを至上命題にしており、対日スパイ活動はその一環なのだ。
中国のスパイ工作事件としてはヤマハ発動機の無人ヘリコプターの不正輸出事件が昨年1月に発覚している。輸出先は中国人民解放軍直属の兵器メーカー「保利科技有限公司」(ポリテク社)などで、中国軍は台湾への軍事侵略を念頭にヤマハ発動機の無人ヘリを「敵地情報収集用」UAV(無人機)に転用、配備を計画しているとされる。
同事件では中国共産党中央対外連絡部の関わりのもつ中国人ブローカーが日本国内で暗躍しており、これも明らかにスパイ事件なのだ。
いつまでもスパイ天国を許せば、日米同盟は瓦解し、わが国の平和と安全が危うくなる。自衛官のみならず国民全体にその自覚が不可欠である。
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