【連載】スパイ防止法 1 日本の平和と安全のために
九条が招くスパイ天国
自衛権放棄も同然に
スパイ工作員を使って日本人拉致を繰り返した北朝鮮、日米の軍事機密を盗み出すために海上自衛官らの工作を行なう中国、さらには旧ソ連時代からのスパイ工作の手を緩めないロシア…。
わが国はこうしたスパイ工作にさらされています。ところが、わが国は他国のスパイ諜報活動を放置したままです。それで久しく「スパイ天国」と呼ばれてきました。これも正真正銘の「戦後レジーム」と言えます。
そこからの脱却を目指すのなら、スパイ防止法を制定するしかありません。これは安倍政権の重要課題のはずです。本シリーズはスパイ防止法について探っていきます。
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07年5月3日で憲法施行から60年を迎えます。戦後、わが国はこの新憲法によってスタートを切りました。憲法体制は戦後体制にほかなりません。ところが、憲法は制定時からさまざまな問題を抱えており、還暦を迎えたいま、その矛盾が一層深まっています。「スパイ天国」はその典型例です。
■軽犯罪並みで国の安全軽視
周知のように、憲法前文は「日本国民は…平和を愛する諸国民の公平と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と高らかに宣言し、9条では「戦争の放棄」と「戦力の不保持」をうたいました。
憲法では、もはや日本に敵対国はなく、他国を仮想敵国とすることがはばかれます。敵国がないのですから、わが国には守るべき国家機密とりわけ防衛機密も存在しないことになります。憲法を文字通りに受け止めると、こんな風になってしまうわけです。
もちろん、わが国は机上の九条体制を早々と捨て、1950(昭和25)年に警察予備隊、独立後の54年に自衛隊を発足させました。この時点で憲法のいう「戦争」や「戦力」は侵略戦争のそれであって自衛権まで放棄していないとの考えに立ったのです。これは最高裁判決で確定した解釈です(59年12月)。
わが国は「公平と信義」を信頼しかねる国があるとの認識に立ち、自衛力をもって自国を守るとしたのです。つまり、敵対国が存在し、仮想敵国があり得ることになり当然、守るべき国家機密が存在することになります。本来、自衛隊創設の際、同時に機密保護法や防衛機密保護法といったスパイ防止法が制定されてしかるべきだったのです。
ところが、これを歴代内閣は怠ってきました。政治の不作為としか言いようがありません。
自衛権は国際法(国連憲章51条)で認められた独立国の固有の権利です。ですから、国家機密や防衛機密を守るのも自衛権の現われです。それで世界ではどの国もスパイ行為を取り締まる法整備(スパイ防止法や国家機密法、あるいは刑法など形態はさまざま)を行なっているのです。
ところが、わが国はスパイ行為を取り締まる法律そのものがないのです。それで他国ではスパイ事件であっても日本ではそうなりません。外為法違反事件や窃盗事件、あるいは自衛隊法(守秘義務違反)違反事件となり、それらはいずれも軽い刑でしかないのです。
たとえば宮永元陸将補がソ連に自衛隊の機密を流していた事件が1980年に発覚しましたが、自衛隊法違反でわずか懲役1年という微罪で終わっています。
これはスパイ行為に付随する行為について処罰しているだけだからです。たとえば北朝鮮のスパイ工作員を逮捕できるのは、密入国した際の出入国管理法違反、あるいは本国に無線連絡した際の電波法違反といった容疑によります。
■戦後レジーム 今こそ脱却を
これらはいずれも重罪ではなく、初犯なら執行猶予がつきます。それでスパイは大手をふって北朝鮮に帰っていったという笑えない話が山積しているのです。
このようにスパイ行為そのもので逮捕できないのは、世界で日本一国だけでしょう。他国の場合、刑法や国家機密法にスパイ罪を設け、最も重いケースはその国の最高刑で臨んでおり、執行猶予がつく日本とは大違いです。
主な国のスパイ罪の最高刑をみますと、アメリカ(連邦法典794条=死刑)、イギリス(国家機密法1条=拘禁刑)、フランス(刑法72・73条=無期懲役)、ロシア(刑法典64条=死刑)、中国(反革命処罰条例=死刑)といった具合です。ちなみに北朝鮮では死刑です(刑法65条)。
これに対してわが国はスパイ行為に付随する行為で取り締まるので、軽犯罪並みです。言ってみれば、強盗罪がないから車で逃げる強盗がスピード違反したところを道路交通法違反で捕まえるようなものなのです。
つまり、スピード違反をしなければ強盗を捕まえられないように、スパイも逮捕できません。そんな“不思議の国”が日本です。こんな「戦後レジーム」をいつまでも放置しておいてよいわけがありません。
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