戦後が六十年以上も経ち、そのうえ東西冷戦も終焉し、日本外交は一大転換点に立たされています。日本外交の進路を今こそ明確に指し示すべき時です。
【小泉外交の評価】
小泉政権が外交・防衛政策では戦後政治のタブーに挑戦し、多くの成果を上げてきたのは率直に評価できるでしょう。とりわけブッシュ政権を支持し続け、日米同盟を強化して「世界の中の日米関係」へと高め、在日米軍再編に伴って米軍と自衛隊の「戦略的融合」を進めたのは、日本の平和と安全に大きく寄与したと言えます。
また国際貢献に一歩踏み出したのも評価できます。01年9月の米同時多発テロ以降、国際反テロ戦線に加わり、テロ特措法を制定してインド洋に海上自衛隊を派遣。イラク戦争後はイラク特措法によってイラクの人道復興支援に陸空自衛隊を送り、06年7月には一発の銃弾も発せず一人の犠牲者も出さず見事に撤収を終えました。
日本は長年、国際貢献にカネは出してもヒトを出さず、後ろ向きの国との批判を被ってきましたが、小泉政権はこれを覆し国際貢献国家として新たなスタートを切りました。これは歴史的快挙と言ってよいでしょう。しかし、日米同盟も国際貢献もまだまだ中途半端です。集団的自衛権行使から逃げ、国際社会の常識的活動にすら至っていないからです。この克服が安倍政権の課題として残ります。
【日本外交の基礎】
外交で第一に考えるべきは、わが国は何をもって生きていくのか、その原点についてです。わが国はエネルギーも資源ない島国、すなわち海洋国です。海洋国は交易地と商圏がなければ存続できません。その交易は公正、公平でなくては続かないからルールを重んじます。それに従って行動しなければ永続的な交易が期待できないからです。それで古代ギリシャや近代イギリスのような海洋国で民主主義が萌芽し、それが今日の民主主義圏を形成してきました。自由な海洋が民主主義を育んできたと言えます。
これに対して大陸国はどうでしょうか。大陸国は土地に縛られています。土地は必ずどこかの国に属しており、未帰属地は南極を除いて皆無です。そこで必然的に縄張りができ、それを維持、拡大しようと国家間の戦いが繰り広げられ、国境の数だけ対立があったのです。ここから海洋に依拠する国と大陸に依拠する国では国家像が大きく変わってきます。海洋国は自由を基軸に据えますが、大陸国は支配を基軸に据えようとします。そして大陸国は少しでも安全ラインを広げようと国境拡大に余念がなく、ここから帝国主義的傾向を帯びます。
わが国は言うまでもなく海洋国です。にもかかわらず、大陸国を目指す愚を犯し先の大戦の悲劇を招きました。この教訓を何人も決して忘れてはならないでしょう。
【海洋戦略の展開】
海洋国と大陸国は単に地理的にわけられるのでありません。自由と民主主義を基調とするのが海洋国、独裁と権威主義を基調とするのが大陸国と言えます。このように価値観で判別されるべきです。そこから価値観を共有する国々との連携が重要になります。それが海洋戦略にほかありません。
06年6月の日米首脳会談で日米両国は安全保障だけでなく自由や人権、エネルギーなど多方面にわたって地球規模で協力し合う「新世紀の日米同盟」の結成を宣言しました。この最大のポイントは、日米が「共通の価値観」に基づき、単なる日米2国間だけでなく、地球規模での同盟関係の強化をうたったことです。わが国は自由と人権、民主主義問題で世界的なリーダーシップを発揮することを宣言したと言ってよく、ここに意義があります。
日本外交はこれを踏まえ、自由諸国との連携を強化すべきです。アジア太平洋では日本−豪州−インドの「デモクラティックG3」を軸にASEAN(東南アジア諸国連合)を引き寄せ、海洋同盟を構築すべきです。さらにこれを中央アジアにまで拡大し、アジア全域で海洋同盟に加わる国々を増やしていくことが重要です。このことは「アジア民主化」と言い変えることができます。ブッシュ米大統領は05年11月の京都演説で「アジア民主化戦略」を打ち出し、自由が米国のアジア関与の基礎となると述べています。つまり、中国や北朝鮮など独裁国家に民主化を迫ろうとしているのです。
わが国はこの「アジア民主化戦略」に積極的に関わるべきです。それが東アジアの不安定化を防ぎ、長期的に平和をもたらすことにつながるからです。もちろん、アジアのみならず地球規模で海洋戦略を発動すべきでしょう。これを日本外交の基本軸に据えるべきです。
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