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  07-06-15 EU展望

変貌するEU

「社会主義」路線に決別

米国と関係修復/「北欧型」見直しも

 

【ポイント】

 EU(欧州連合)は指導者交代で新たなEU作りへの動きが強まっている。フランスのサルコジ新大統領は米国型の競争社会を評価し、従来の「仏式社会主義」路線への決別を目指し、北欧では福祉路線が行き詰まり相次いで政権交替。また新興・東欧諸国は対露へ米国接近を強めている。拡大EUの変貌を探る。

 

【本文】

 EUの中で最も注目されるのはフランスの変貌だろう。5月16日に12年間のシラク時代に別れを告げ、52歳のサルコジ氏が共和制6人目の大統領に就任した。

サルコジ氏は保守のシラク後継とは言え、選挙戦では「過去との決別」を訴え、左右を問わず歴代政権が「フランス社会モデル」を続けてきたと批判、「稼ぎたかったら働け」「高額所得者はより多くの富を作り出せ」と主張し、米国型の自由競争社会による活力あるフランス像を提示した。これを過去に安住してきた仏国民が支持したことは画期的な変化と言える。

対外的には低下した国際社会での地位向上を目指し、新たに米国型の「国家安全保障会議」を発足させ、事務局長には駐米大使だったジャンダビット・ルビット氏が就任。米国との協調路線に転じる姿勢を鮮明にした。

 

■仏は競争社会導入に活路を見いだす

またサルコジ大統領はEU内でのリーダーシップを発揮するために懸案のEU憲法問題では「ミニ憲法」の採択を提唱した。EU憲法は27カ国の全加盟国の批准で発効するが、05年にフランスとオランダが国民投票で批准を否決。このため棚上げ状態にある。

そこでサルコジ大統領はEU憲法から大統領・外相ポストなど重要部分だけを抜き出した「ミニ憲法」を作り、それを各国議会の採択で成立させる案を提示。これにはオランダが賛成、EU議長国ドイツのメルケル首相が取りまとめに動き、早くもサルコジ大統領の存在感が高まっている。

フランスの変貌がどこまで本物か、それはひとえに国内政治の変化にかかっている。競争社会の導入には根強い反対があるからだ。例えば公務員数(約520万人・全就労者の20%)の削減には公務員労組が真っ向から反対している。

また週35時間労働の見直しなど雇用改革も困難が伴う。やり方いかんでは移民暴動が再発しかねない。それでも「仏式社会主義」決別にしか活路がないのが現実だ。

 

■英では与野党とも競争路線

一方、イギリスではブレア首相が退陣、6月末にブラウン財務相(56)が新首相に就任する。ブラウン氏はブレア政権で一貫して財務相を務め、英経済に好景気をもたらした人物。米国型の自由競争を基本にする市場経済主義者でもある。

その意味で経済政策ではブレア首相よりも右派に位置する。だが、カリスマ性に乏しい。5月の労働党大会で後継に決まると、懸案の国民医療サービス(NHS)の改革や新たな教育、環境政策を打ち出し、求心力の強化に努めている。

政権奪取を目指す野党・保守党のキャメロン党首(40)はすでにNHS改革案や環境政策を提示しており、逆に中道よりの政策を訴っている。保守党は昨年3月の世論調査で労働党を上回って以来、高支持率をキープし、09年の総選挙での政権交代を視野に入れつつある。

労働党が右より、保守党が左よりということは、それだけ政策的には似通っているわけで、いずれも中道の「ブレア路線」の継承と言ってよい。イギリスは当面、変わりようがないのだ。

 

■中道右派へと転換した北欧

EUの変貌で注目されるのは北欧の変化だ。北欧でも自由競争型への転換が徐々に進んできた。

スウェーデンでは昨年9月の総選挙で高福祉・高負担の社民党政権が敗北、雇用創出の「働け」型の導入を掲げる中道右派連合政権(穏健党、中央党、自由党、キリスト教民主党)が誕生した。実に12年ぶりの右派政権の登場だった。

新たに首相に就いたラインフェルト氏(穏健党党首)は41歳という若さで、「北欧型」福祉の全面否定を行わず、それを維持しつつ雇用を拡大するという綱渡り的な政策を打ち出している。

だが、従来の高福祉・高負担は限界に直面している。高福祉が可能だったのは高度経済成長の裏打ちがあったからだが、ここ数年、失業問題が深刻さを増してきた。社民党前政権は失業率を5%台としてきたが、実際は10%以上にもなる。

ところが、スウェーデンの失業手当は失業前の80%の所得を300日間保証しており、これでは財政破綻は目に見えている。ラインフェルト首相は「新規雇用する企業への減税の方が失業対策に有効」と訴え、雇用拡大策に比重を移している。

またフィンランドでは今年4月の総選挙で競争力強化を訴える保守派が躍進、福祉拡大を目指す社民党が政権の座から降り中道右派政権が誕生した。バイハネン首相は再任だが、社民党の足かせが取れ思い切った雇用拡大策を打ち出すだろう。

フィンランドもスウェーデン同様、高度成長が高福祉を支えてきた。IT産業は携帯電話の世界最大手のノキアなどが好況なものの、他産業は振るわず、失業率は8%近くに上昇した。財政を福祉にばかり投入すれば、遠からず福祉も破綻する。その認識が国民に広がり、雇用拡大策に財政投入を訴える保守中道派を支持した。フィンランドでも「北欧型」の見直しが始まったのだ。

 

■ロシアの圧力にEUの結束課題

EU外交は米国へのイラク問題などで対抗姿勢を露わにしたシラク氏が退場、代わって親米のサルコジ氏が仏大統領に就いたことで米国との協調路線に転じる。すでにドイツはメルケル首相のもとでブッシュ政権との関係の修復に努めており、これで独仏と米国の関係は確実に改善される。

6月初めにドイツのハイリゲンダムで開催された主要国首脳会議(サミット)では温室効果ガス論議で米欧の考え方の相違が浮き彫りになり数値目標は明記されなかったものの、取り立てて対立軸にならなかったのは米欧修復の成果だろう。

米欧修復にはロシアの存在が大きい。原油高を背景に高成長を続けるロシアがEUへの圧力を強めているからだ。とりわけロシア離れする旧東欧諸国に対して強圧的姿勢を採り、ポーランドが米国のミサイル防衛(MD)システム配備を決めたことに対抗して同国産食肉の輸入を禁止するなど報復は露骨だ。

このためポーランドやバルト3国などが猛反発、5月中旬にトリヤッテ(ロシア南部)で開かれたEU・ロシア首脳会談では激しい応酬が繰り広げられ、新しい協力協定の締結のメドは立たずじまいだった。ハイリゲンダム・サミットでの米露首脳会談でもMD問題は解決せず、米欧露の関係は微妙なままである。

とまれ、EUは対外的には米国と関係を強め、国内的には米英型の市場路線を採り、「社会主義」路線に見切りをつけることになるだろう。

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